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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)5028号 判決

原告

モリタ石油産業株式会社

被告

澤田修一

主文

一  被告は、原告に対し、金八八二万六〇九五円及びこれに対する平成一〇年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇六万三〇二九円及びこれに対する平成一〇年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故)

(一) 日時 平成一〇年二月一六日午後一時一九分ころ

(二) 場所 大阪府寝屋川市打上一八―四八―一 コモンシティー星田サービスステーション(ガソリンスタンド)内

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪三四ち三〇五九)

(四) 被害物件 前記場所に設置されていた洗車機(マジックスルーラピッド)(以下「本件洗車機」という。)

(五) 態様 本件洗車機のサイドブラシが左右から中央部に移動して加害車両の前に存していたにもかかわらず、被告が加害車両を前方に発進させて突っ込み、サイドブラシ等を毀損した。

2  (本件洗車機)

本件洗車機は、原告が所有者であるエッソ石油株式会社(以下「エッソ石油」という。)から賃借(リース)し、原告の経営するガソリンスタンドに設置していたものである。

3  (責任)

被告は、本件洗車機において車両を洗車する前、本件洗車機によるアナウンス及び各注意書の指示に従い、車両のエンジンを停止させ、ギヤもパーキングにし、サイドブレーキを引いて停止しなければならないという注意義務がありながら、右注意義務に違反し、洗車開始後、車両を前方に発進させた過失により本件事故を発生させた。

4  (損害)

(一) 修理費用相当額 七八六万二九二五円

原告とエッソ石油との使用等に関する契約書一四条二項(原告〔原告の使用人を含む。〕または顧客その他の第三者の故意過失により、本件サービスステーションの建物土地または設備・備品が滅失、毀損したときは原告はエッソ石油の選択に従い、原告に対し原告が負担する補修その他の原状回復に要する費用を賠償するかまたは自らそれに要するすべての費用を負担して、これらを原状に復さなければならない)により、原告はエッソ石油に対し、本件洗車機の毀損による修理費用を賠償しなければならない。

本件洗車機の修理費用は、七八六万二九二五円である。

(二) 本件事故日(平成一〇年二月一六日)から新しい洗車機が設置された日(同年四月九日)までの五二日間本件洗車機を使用収益できなかったことによる損害

(1) リース料金 五二万円

リース料金は月額三〇万円であるから、日額一万円として五二日間分

(2) 逸失利益 七六万五二八四円

本件事故前三か月(平成九年一一月から平成一〇年一月まで)の本件洗車機による売上金合計一三五万四〇二六円を九二日で除した一日当たりの売上金一万四七一七円に使用できなかった期間五二日を乗じた額

(三) 弁護士費用 九一万四八〇二円

5  (損害賠償請求権の譲渡)

仮に、修理費及びリース料金について原告の固有の損害と認められないとしても、右は、エッソ石油の損害であり、同社は、平成一〇年一一月二日、原告に対し、右損害賠償請求権を譲渡し、同月三日、被告に対し、その旨通知した。

よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金一〇〇六万三〇二九円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成一〇年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)は認める。

同1(五)は争う。

被告は、停止位置まで車を進め停止させ、次いで、車は自動的に前方に送り出されたが、サイドブラシが車の前両側を挾んだ段階で機械が停止してしまったため、クラクションを鳴らして店員を呼んだが誰も来ず、不安になって洗車機から出ようと前進したが、更に一層強くサイドブラシが車の両側を押しつける結果になって車は前進不能となった。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

主張のような各注意書や指示に従う必要のあることは認めるが、被告には車をことさらに前進させた覚えはない。

4  同4(一)は知らない。

エッソ石油と原告との間の契約は両名の問題であって、第三者である被告を拘束するいわれはないから、修理費は、本件洗車機の所有者であるエッソ石油の損害であり、原告に右に関する損害賠償請求権はない。

同4(二)、(三)は知らない。

本件洗車機の実際の修理期間は一四日である。

5  同5は認める。

三  抗弁

(過失相殺)

原告も万が一に備えて洗車のときは、取扱に習熟した従業員をそこに居させて客が指示事項を遵守しなかったり、それが不徹底だったり、また、誤作動等をしないように、してもすぐに装置を停止させ、損害が発生しないように監視する義務があるが、これを怠った過失があり、五割の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)

(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、これに証拠(甲四、五の1ないし3、六の1ないし3、一三、一四)を総合すると、次の事実が認められる。

被告は、加害車両を本件洗車機で洗車するため、本件洗車機前面に加害車両を運転していき、本件洗車機を作動させ、本件洗車機内に車両を搬送するコンベヤ上に加害車両を進行させ、同コンベヤが約三五ミリメートル進行した時点で、被告の過失により加害車両を発進させ、本件洗車機本体に突っ込ませ、サイドブラシ等を損壊した。

なお、被告本人尋問の結果中には、加害車両が本件洗車機本体内部でブラシに挟まれ動かなくなったため、恐怖のあまり加害車両を前進させた旨の供述部分が存するが、本件洗車機が異常を感知して停止したのは前記コンベヤが約三五ミリメートル動いたに過ぎない段階であったのであり、加害車両が発進しない限り、未だ加害車両は本件洗車機本体内部には入っていない段階であったのであるから、右供述部分は採用できない。

二  請求原因2(本件洗車機)は当事者間に争いがない。

三  請求原因3(責任)

前記認定の本件事故の態様からすると、本件事故は、被告が、本件洗車機において車両を洗車する前、アナウンス及び各注意書の指示に従い、車両のエンジンを停止させ、ギヤもパーキングにし、サイドブレーキを引いて停止しなげればならないという注意義務があるのに、これを怠り、洗車開始後、加害車両を前方に発進させた過失により生じたものであるから、被告は民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

四  請求原因4(損害)

1  修理費 七八六万二九二五円

証拠(甲一五、一六、二四、二五)によれば、本件事故による本件洗車機の破損に要した修理費は、七八六万二九二五円であることが認められる。

なお、この損害賠償請求権は、本件洗車機の所有者であるエッソ石油に帰属するものであり、エッソ石油と原告との間のリース契約により、その負担を原告が負うことになっているとしても、不法行為者である被告(第三者)に対し、修理費を現実に出捐していない原告が右契約を根拠にして損害賠償請求をすることはできないと解される。

2  リース料金

原告が負担するリース料金は、本件洗車機による収益に関する経費であり、後記認定のとおりリース料金を経費として控除せずに本件洗車機の修理期間中の逸失利益を算定すれば、この間原告が負担してリース料金については損害額算定について考慮済みであり、この他にリース料金を損害額に加算することは、二重に評価することになる。

3  逸失利益 一六万三一七〇円

証拠(甲八ないし一〇、二六、証人山下和男)によれば、本件洗車機を修理に付したのは平成九年三月二七日であり、修理が完了したのは同年四月九日(一四日間)であること、本件事故前の本件洗車機を使用することによる収益(本件洗車機の使用料金、本件洗車機使用後のワックス掛け)は、平成九年一一月が三二万八四四八円、同年一二月が五一万七五二二円、平成一〇年一月が二二万六三五六円であり右三か月間の合計は一〇七万二三二六円(一日当たり一万一六五五円)であったこと(その余の収益については、本件事故との因果関係を認めるには至らない。)が認められるから、本件事故により本件洗車機を使用できなかったことによる逸失利益は、右修理期間一四日間に限られるものであるから、逸失利益は、一六万三一七〇円となる。

4  以上を合計すると八〇二万六〇九五円となる。

五  請求原因5(損害賠償請求権の譲渡)は当事者間に争いがないから、本件洗車機の修理費に関する損害賠償請求権は、エッソ石油から原告に譲渡されている。

六  抗弁(過失相殺)

前記認定の本件事故の態様からすると、本件事故は被告の過失によるものであり、原告に過失相殺をしなければならない事情は見出せない。

七  弁護士費用(請求原因4(三))

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、八〇万円と認めるのが相当である。

八  よって、原告の請求は、八八二万六〇九五円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成一〇年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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